広告費を1円もかけずに、ライブ配信だけで販路を作れるのか。米国のSkimpiesという小さなブランドは、それを実際にやりました。創業者のBette Bentleyさんは、ニューヨークでコメディの書き手として活動し、Upright Citizens Brigadeの舞台に立っていた人です。いま販売しているのは、レギンス専用に設計された世界初のライナーだと説明されている商品です。Shopifyの公式ブログに掲載された本人へのインタビューをもとに、この事業がどこでつまずき、何を変えて、どこまで行ったのかを整理します。派手な成功譚として読むより、続けるための設計として読むほうが役に立つ事例です。
この事業の姿
公式サイトの創業者ページによれば、Bentleyさんが商品を作ったきっかけは自分の必要でした。仕事と育児と運動を行き来する生活のなかでレギンスをはき続けていたものの、その用途に合う下着が見つからなかったといいます。求めていたのは、線が出ない通気性のあるオーガニックコットンで、他用途の製品を流用したものではなく、動くことを前提に設計されたものでした。
最初は手作りで、初期の顧客には自分で届けていたと記載されています。その後、両乳房の切除という重い経験を経て、残された時間の可能性という言い方でその出来事を振り返り、女性に喜びを届けるという方向へ事業の意味づけを定めています。公式サイトは商品を「The Original Leggings Liner™」として掲げ、下着の線が出ないこと、通気性、運動に耐える定着力を特徴として挙げています。
つまりこれは、資金を集めて始まった事業ではありません。自分が困っていたことを自分で解いた製品が先にあり、そのあとで売り方を探した順序です。
最初はInstagramに置いていた
Bentleyさんは当初、Instagramのほうを主戦場と考えていました。そこから配置を変えたきっかけが、1本の短い動画です。
作ったのは、商品を使った場合と使わない場合でレギンスの見え方がどう違うかを、寄りの映像で見せる前後比較でした。ポイントは長さの詰め方です。8秒まで短くし、面白い部分を全部いちばん前に置いたと語っています。説明を入れず、情報を入れず、ブランド名も入れませんでした。
結果は本人の言葉で、動画はsix million viewsに達し、売上は24時間で2倍になった、というものです。この経験から彼女が得た結論は「TikTokの人はクレジットカードを出している」でした。そして両者の違いをこう表現しています。Instagramは看板であり、TikTokはグループチャットである、と。自分はグループチャットのほうが好きだ、とも付け加えています。
看板は、通りすがりに見られるだけで会話は起きません。グループチャットは、その場でやりとりが起きます。同じ動画素材でも、置く場所によって求められる作り方が違うという話です。
最初のライブは視聴者4人だった
伸びた動画があっても、ライブ配信は別物でした。彼女の表現では、最初のライブは完全な退屈で、売上はゼロ。視聴者は4人で、そのうち最後まで残ったのは2人です。
普通ならここで終わります。彼女が拾ったのは、プラットフォームから届いた通知でした。配信時間の長さで、他のクリエイターの90%を上回っているという内容です。数字としては小さくても、続ければ上位に入れる領域があると分かる材料でした。
もうひとつ拾ったのが、残った2人の反応です。物語を語っていることが良かった、人を輪に入れていることが良かった、と受け取ったと述べています。売り込みではなく、話を聞かせる場として機能していたという発見です。
「6か月、毎日ライブをやる」と宣言した
彼女は家族に対して、これから6か月間、毎日必ずライブに出ると宣言しました。目標を売上ではなく行動の量で置いたのが、この事例の要点だと思います。
同時に、他のライブ販売者を調べ、QVCの売り方を研究しています。そこから抜き出した基本は具体的です。座らず立つこと。エネルギーを持つこと。カメラに向かって話すこと。そして、継続がアルゴリズムに効くという理解です。
演出については逆方向の指示も出しています。フィルターを使わないこと。気が散るからです。作り込みすぎず、そのままでいることを勧めています。
ライブ配信は販売の段階をひとつに畳む
なぜライブが効いたのか。彼女の説明は、販売の流れを完全に畳めるから、というものです。
通常、認知から検討、購入までは別々の場所で起きます。広告で知り、サイトで調べ、問い合わせて、注文する。ライブ配信では、これがひとつの時間の中で同時に起きます。実演で見せ、その場で質問に答え、その場で不安を解き、その場で買ってもらう。段階の間で人が落ちません。
彼女は自分の経歴もここに載せています。コメディの書き手として人前に立ってきた訓練が、ライブ販売にそのまま効いたという整理です。経験のない人には、即興演劇の教室か、人前で自分を表現する必要のある何かの教室に通うことを勧めています。技術としてのライブ販売は、後から身につけられるものだという立場です。
もうひとつ、彼女が重く扱っているのが正直さです。乳房切除の経験を含めて、自分の弱い部分を配信で話したことが、視聴者との結びつきを予想以上に深めたと述べています。商品の説明だけでは作れなかった関係が、そこにできたという趣旨です。
到達点と、その代償
6か月の毎日配信を経て、SkimpiesはTikTokで1位のブランドになりました。締めくくりになったのが、倉庫からの10時間のライブ配信で、$60,000の売上を作っています。有料広告は使わず、TikTokに一銭も払っていないと明言されています。
ただしインタビューは、そこで終わっていません。この密度は生活を削りました。配信の前には準備の時間が要り、配信の後には気持ちを戻す時間が要ると彼女は述べています。その往復が結婚生活に負荷をかけました。
さらに、最初の成功のあとの巡回を終えたところで、体に出ています。脚の感覚がなくなり、ベッドで足の指が動かせなくなった、完全な不安発作だった、という表現です。そこから、自分の心の健康を優先すると決め、子どもたちと今この瞬間を遊ぶことで自分を取り戻したと語っています。途中で大学の学位を取り直すことにも触れられています。
この部分を落として紹介すると、事例の意味が変わってしまいます。毎日配信は成果を出しましたが、無料ではありませんでした。払った対価が広告費ではなく本人の時間と健康だった、というのが正確な読み方です。
日本の小規模事業者が持ち帰れること
この事例から引き出せることは3つあります。
第一に、素材の長さと構成は、置く場所に合わせて作り直すということです。同じ商品の同じ利点でも、8秒で面白い部分を先頭に置いた形にして初めて届きました。既存の動画をそのまま横に流すのではなく、その面の見られ方に合わせて切り直す作業が要ります。
第二に、初回の数字ではなく、続けられる指標を目標に置くということです。視聴者4人という結果を成否の判定に使っていたら、そこで終わっていました。彼女が置いたのは6か月毎日という行動の量で、判定はそのあとです。
第三に、続ける負荷を最初から設計に入れることです。この事例では、成果が出た局面と体調を崩した局面が地続きでした。一人または少人数で運営するなら、配信の頻度は事業の計画であると同時に、自分の生活の計画でもあります。
なお、この記事で扱った数値はインタビューと公式サイトに記載されているものだけです。会社の年間売上、利益、従業員数、広告以外の販路の比率は公表されていないため、扱っていません。1位という表現も、どの区分での順位かはインタビューの記載の範囲を超えて確認できていません。
出典と注記
この記事はShopifyの公式ブログに掲載された創業者インタビューと、SKIMPIESの公式サイトのみを出典とし、人物名・期間・引用は原文の表記に従いました。売上高・利益・従業員数は公開されていないため本文では扱っていません。当サイトが商品を購入・使用して評価したものではなく、同じ方法を取れば同じ結果になることを示すものでもありません。ライブ配信の成果は商品、価格、時期、配信者の適性によって変わります。
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