米国のスタートアップからストックオプションを受け取ると、条件面の説明でほぼ必ず「ISOかNSOか」という言葉が出てきます。この2つは待遇の呼び名ではなく、税金がかかる時点が違う別の制度です。
IRSはストックオプションを「法定(statutory)」と「非法定(nonstatutory)」に分けて説明しています。法定にあたるのが、ISO(インセンティブ・ストック・オプション)と、従業員株式購入プラン(ESPP)にもとづいて付与されたオプションです。それ以外がNSO(非法定ストックオプション)になります。
IRSのTopic no. 427は、法定のオプションについて「オプションを受け取ったときも行使したときも、通常は総所得に含めない」と書いています。一方でNSOは、Publication 525の説明によると、行使した時点で株式の公正市場価値(FMV)から支払った額を引いた差額を所得に含めます。株を売って現金を受け取っていなくても、買った年の所得になります。
ただし、ISOなら税金が出てこないという話ではありません。行使したときの同じ差額は、代替ミニマム税(AMT)の調整項目として別の計算に入ります。さらにISOには、条文の側に期間と金額の条件が並んでいて、そこから外れたオプションはISOとして扱われません。
この記事では、IRSの公開ページと合衆国法典(26 U.S.C.)の条文に書かれている範囲だけを使い、課税が起きる時点、ISOでいられるための条件、100,000ドルの上限、そして30日という期限の意味を順に整理します。金額は公表されている通貨(米ドル)の表記のまま書き、日本円へは換算していません。日本に居住する人の日本側の課税は、この記事では扱いません。確認した一次情報は米国のものだけだからです。確認日は2026年9月16日です。
なお本記事は、条文と公式資料の記載を読み解いたものであり、個別の税務判断を行うものではありません。自分の付与条件がどちらにあたるかは、契約書と付与通知を持って米国の税務の専門家に確認してください。
違いが出るのは4つの場面で、うち2つは金額が動く
ISOとNSOの差は、権利を受け取ってから株を売るまでのあいだに、4か所で現れます。
付与された時点では、どちらも所得に入りません。読者が最初に判断を迫られるのは②の行使で、ここから先の扱いが分かれます。そして③の保有要件と④の書類は、ISOにだけ関わる項目です。
順番も重要です。オプションの種類は、行使の直前に選べるものではありません。付与された時点の条件で決まっています。条文が定める要件を満たす形で付与されていればISO、外れていればNSOです。手元の付与通知を読むときは、この記事の後半で挙げる条件が書かれているかを確かめてください。
NSO:行使した年に、差額がその年の所得になる
まずNSOです。Publication 525は、雇用主からNSOを付与された場合、行使するまでは通常、所得に含めないと説明しています。オプションを受け取っただけでは課税されません。
課税が起きるのは行使したときです。Topic no. 427は、オプションのFMVを容易に算定できない場合について、付与時に課税される事象はないが、行使したときに受け取った株式のFMVから支払った額を引いた額を所得に含めなければならない、と書いています。公開市場で取引されているオプションのように、FMVを容易に算定できる場合は別の扱いになると、Publication 525が説明しています。
ここで押さえたいのは、現金の動きと課税の向きが逆になっていることです。行使では、まず自分が行使価格を払います。株は手元に残り、売っていないので現金は入ってきません。それでも差額は、その年の所得として申告の対象になります。未上場のスタートアップでは、その株をすぐに売れないことがほとんどです。行使の判断は、税金を払う現金を別に用意できるかどうかとセットになります。
ISO:総所得には入らないが、AMTの調整項目になる
次にISOです。Publication 525は、ISOを行使しても総所得には何も含めない、と書いています。所得として算入されるのは、株式を売ったときです。
そのかわりに出てくるのがAMTです。Publication 525は、ISOを行使したときのスプレッド(FMVと行使価格の差額)が、代替ミニマム税の目的で調整項目になると説明しています。Form 6251の説明書では、これを記入する場所が2i行と決まっており、ISOの行使で取得した株式のAMT上の取得価額を、その調整額のぶんだけ引き上げるよう書かれています。
AMTは、通常の計算とは別の枠で税額を求め、大きいほうを納めるという仕組みです。全員がAMTを納めることになるわけではなく、控除額が設けられています。Form 6251の説明書(2025年分)は、控除額と、控除が減り始める所得の水準を次のように示しています。
| 申告の区分 | 控除額 | 逓減が始まるAMTI |
|---|---|---|
| 単身・特定世帯主 | 88,100ドル | 626,350ドル |
| 夫婦合算・特定生存配偶者 | 137,000ドル | 1,252,700ドル |
| 夫婦が別々に申告する場合 | 68,500ドル | 626,350ドル |
出典:IRS「Instructions for Form 6251」(2025年分・確認日 2026-09-16)。控除額は、AMTIが上の水準を超えた部分の25%ずつ減ります。
つまりISOの行使は、「所得税では何も起きないが、AMTの計算には差額がそのまま乗る」という構造です。行使した株数が多いほど、この調整額も大きくなります。実際にAMTを納めることになるかどうかは、その年の他の所得や控除によっても変わるため、この記事では税額の試算は行いません。行使の規模を決める前に、その年の見込みを含めて専門家に確認するのが安全です。
ISOでいられる条件は、条文に6つ並んでいる
ISOという扱いは、会社が資料にそう書けば成立するものではありません。26 U.S.C. §422(b)が、ISOと呼べるオプションの要件を列挙しています。
このうち、付与を受ける側がとくに見ておきたいのは4番目の行使価格です。条文は「行使価格が、付与時点における株式のFMVを下回らないこと」と定めています。安く買える権利のように見えて、その「安さ」は付与された時点のFMVを基準にしたもので、それより低い価格を付けることはISOの要件から外れます。
6番目の条件は、議決権の10%を超える株式を持つ人への付与を除いています。ただし例外があり、行使価格を付与時のFMVの110%以上にし、かつ付与から5年を超えて行使できない条件にすれば、この制限は適用されません。創業者が自分に付与する設計では、この2つの条件が効いてきます。
なお、オプションのために用意する株式の枠そのものが、会社側の年間費用に跳ね返る州もあります。デラウェア州の法人では、定款に書いた授権株式数が毎年の税額を動かします。会社側の負担はデラウェア法人の年間費用の記事で扱っています。
2年、1年、そして3か月
要件を満たして付与されたISOでも、売る時期によって扱いが変わります。26 U.S.C. §422(a)は、2つの期間を定めています。付与の日から2年以内に処分しないこと、そして株式が移転された日(行使の日)から1年以内に処分しないことです。
2つは片方だけでは足りません。遅いほうが基準になります。付与から2年が過ぎていても、行使したのが半年前なら、まだ条件を満たしていません。Topic no. 427は、この保有期間の要件を満たさない場合、売却による所得を通常の所得として扱わなければならない、と書いています。
3つ目の期間が、雇用に関する条件です。§422(a)(2)は、付与の日から行使の日の3か月前までのあいだ、付与した会社か、その親会社・子会社の従業員であり続けることを求めています。退職を挟むと、ここが最初に効いてきます。会社を離れてから時間が経ってオプションを行使した場合、その行使はISOとしての扱いから外れることになります。退職の話が出た段階で、付与通知の行使期限とあわせて確認しておく項目です。
100,000ドルの上限は「初めて行使できるようになる年」で数える
もう1つ、金額の上限があります。§422(d)は、ある個人について初めて行使できるようになる年のISO対象株式のFMV合計が100,000ドルを超える場合、その超える部分をISOではないものとして扱う、と定めています。
読み方で間違えやすいのが、数える対象と時点です。条文は次の2点を明示しています。
- 順番:複数のオプションがあるときは、付与された順に当てはめる(§422(d)(2))
- 時点:株式のFMVは、そのオプションが付与された時点で判定する(§422(d)(3))
判定に使うのは、行使したときの株価でも、権利が確定した時点の株価でもありません。付与された時点のFMVです。そのため、付与の時点で計算できます。上限を超えた部分は、同じ付与のなかでもISOとして扱われなくなり、NSOと同じ扱いに戻ります。1つの付与が、途中から性格の違う2つに分かれる形です。
「初めて行使できるようになる年」で数えるという点も重要です。権利確定(ベスティング)の設計を前倒しにして一度に多く行使できるようにすると、その年に集中して上限を超えることがあります。付与の条件を見るときは、株数だけでなく、年ごとにいくらぶんが行使できるようになるかまで見ておく必要があります。
海外のアクセラレーターを経由して資金調達をする場合、持分の設計そのものが後の付与に影響します。投資の条件と持分の決まり方は海外アクセラレーターの出資条件の記事で扱っています。
権利が確定していない株式を先に受け取ったとき:30日の期限
ここまでとは別に、スタートアップの持分で必ず出てくる期限があります。26 U.S.C. §83(b)の選択です。
§83は、役務の提供に関連して財産が移転された場合の課税を定めた条文です。§83(b)は、権利が確定していない段階で受け取った財産について、移転された年の所得に含めることを選べるようにしています。含める金額は、移転時点の財産のFMVから、支払った額を引いた差額です。
期限が短いのが特徴です。条文は、この選択を移転の日から30日を超えない時期に行わなければならないと定めています。さらに、いったん行った選択は、長官の同意がなければ撤回できないとも書かれています。
提出の方法について、IRSは2024年分のPublication 525への更新として、書面による申立て、またはForm 15620(Section 83(b) Election)を、自分が申告書を提出するIRSサービスセンターへ提出することで選択できると案内しています。様式が用意されているため、何を書くかで迷う部分は減りました。変わっていないのは期限のほうで、こちらは条文に書かれた30日です。
5年まで遅らせる選択もある(§83(i))
§83にはもう1つ、持分での報酬に関する選択があります。§83(i)の適格持分付与です。オプションの行使や譲渡制限付株式ユニット(RSU)の決済で受け取った株式について、権利が移転可能になるか、実質的な没収のおそれがなくなった日から5年まで、所得への算入を遅らせることができます。
ただし、会社側と個人側の両方に条件があります。
| 見る項目 | §83(b)の選択 | §83(i)の選択 |
|---|---|---|
| 対象 | 役務に関連して移転された、権利未確定の財産 | 適格持分付与にあたる株式(オプションの行使やRSUの決済で受け取ったもの) |
| 効果 | 移転された年の所得に含める(前倒し) | 最長5年まで所得への算入を遅らせる(後ろ倒し) |
| 会社側の条件 | 条文に会社側の条件は置かれていない | その年に米国内の全従業員の80%以上へ、同じ権利内容でオプションかRSUを付与している書面のプランがあること |
| 使えない人 | 条文に個人側の限定は置かれていない | 1%以上の株式を持つ人、CEO、CFO、これらの親族、報酬額の上位4名の役員 |
| 期限 | 移転の日から30日以内 | 権利が移転可能になるか、没収のおそれがなくなった日から30日以内 |
出典:26 U.S.C. §83(b)・§83(i)(確認日 2026-09-16)
80%という数字は、一部の社員だけを対象にした設計では使えないことを意味します。経営陣を除いている点も同じ方向です。制度の作りとして、全社に広く配っている会社のためのものと読めます。期限が30日である点は§83(b)と共通で、どちらも待っていると権利がなくなる種類の手続きです。
会社が出す書類:Form 3921
最後に、会社側の手続きにも触れておきます。Instructions for Forms 3921 and 3922は、ある暦年にISOの行使にもとづいて株式を移転したすべての法人は、その年についてForm 3921を提出しなければならない、と書いています。IRSのAbout Form 3921も、ISOの行使による株式の移転ごとに法人が提出する様式だと説明しています。
受け取る側にとっては、行使した事実と日付、金額がIRSへ届いているという意味になります。ESPPにもとづく移転はForm 3922が対応し、NSOの行使はどちらの様式の対象でもありません。
確認できなかったこと
今回参照したページには記載がなく、この記事で扱っていない項目があります。
Form 3921を会社がいつまでに提出し、いつまでに本人へ交付するのかについて、Instructions for Forms 3921 and 3922は、情報申告書に共通の一般的な説明書を参照するよう案内しており、そのページ自体には期限が書かれていませんでした。会社側で手続きを設計する場合は、その一般的な説明書を確認してください。
日本に居住する人が日本側でどう課税されるか、租税条約でどう調整されるかについては、米国側の一次情報から読み取れる範囲を超えます。この記事では扱っていません。米国内の州税についても、参照したのは連邦の資料だけです。
AMTを実際にいくら納めることになるかも、この記事の範囲外です。Form 6251の説明書が示しているのは控除額と逓減の基準であり、個々の税額は他の所得と控除によって変わります。
要点の整理
米国のストックオプションは、法定と非法定に分かれます。NSOは行使した年に、株式のFMVから支払った額を引いた差額が所得になります。売っていなくても課税されるため、行使の判断には納税資金の準備が伴います。
ISOは行使しても総所得に入りませんが、同じ差額がAMTの調整項目になります。そしてISOでいられるためには、株主が承認したプランにもとづく付与であること、付与から10年以内に行使できる条件であること、行使価格が付与時のFMVを下回らないことなど、§422(b)の要件を満たしている必要があります。
売る時期にも条件があります。付与から2年超、行使から1年超のうち、遅いほうが基準です。満たさずに売れば、売却による所得は通常の所得として扱われます。退職を挟む場合は、行使の3か月前まで従業員であることという条件が先に効きます。
金額では100,000ドルの上限があり、初めて行使できるようになる年の、付与時のFMVで、付与された順に数えます。超えた部分はISOとして扱われません。
そして30日の期限が2つあります。権利未確定の株式を先に受け取ったときの§83(b)の選択と、適格持分付与についての§83(i)の選択です。どちらも、条件を確認しているうちに過ぎてしまう長さです。付与通知を受け取ったら、まず日付から確認してください。
出典と注記
本記事の記載は、IRS「Topic no. 427, Stock options」、IRS「Publication 525, Taxable and Nontaxable Income」、IRS「Update to the 2024 Publication 525 for Section 83(b) election」、IRS「Instructions for Form 6251」(2025年分)、IRS「Instructions for Forms 3921 and 3922」、IRS「About Form 3921」、および合衆国法典 26 U.S.C. §422・§83にもとづきます(確認日 2026年9月16日)。
税法と様式は改正されます。控除額のように毎年見直される数値もあります。実際の申告や設計にあたっては、その時点の資料を公式ページで確認し、米国の税務の専門家に相談してください。本記事は公表資料の内容を整理したものであり、個別の事案について税務上の助言を行うものではありません。
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