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Atlassianがモデルを使い分ける理由。ClaudeとGeminiの役割分担

AtlassianはRovoのAIエージェントを、Gemini FlashとClaudeへ振り分けて動かしています。AnthropicとGoogle Cloudが公表した内容から、モデルを1つに決めない設計と、その判断の置きどころを読み解きます。

Atlassianがモデルを使い分ける理由。ClaudeとGeminiの役割分担 - 株式会社セイビー

大きな会社がAIエージェントを実際の業務でどう動かしているのかは、公式に出てくる情報がほとんどありません。使っているモデルの名前まで公表される例は、さらに少なくなります。Anthropicが2026年8月28日に公開した導入事例で、JiraやConfluenceを作っているAtlassianの構成が、製品ごとのモデルの扱いまで含めて示されました。

先に要点を書きます。Atlassianはモデルを1つに決めていません。件数の多い汎用的なエージェントは既定でGemini Flashへ流し、複雑で長時間かかる仕事だけをClaudeへ回しています。そのために、どのモデルへ渡すかを決める振り分けの層を自社で持ち、その層をGoogle Cloudの上に建てています。利用者はモデルを選びません。選ばせないことが設計そのものになっています。

この記事で扱えるのは、Anthropicの導入事例ページと、Google Cloudが2026年4月22日に出した発表に書かれている範囲だけです。コストがどれだけ下がったのか、レイテンシがどの水準なのかといった数値は公表されていません。効果を示す指標も出ていません。確認日は2026年9月6日です。

公表されているのは、2つの一次情報

今回の内容は、性質の違う2つの公式ページに分かれています。片方だけを読むと、モデルの話とインフラの話が切り離されたまま残ります。

発表元 公開日 そこで分かること
Anthropicの導入事例ページ 2026年8月28日 Rovoの各機能でClaudeが使われている範囲、モデル名、規模の数値、AI責任者の発言
Google Cloudの発表 2026年4月22日 GKEとAI Hypercomputer上に建てる基盤、Rovoへ入るGemini 3 Flash、Rovo MCPサーバー経由の連携

Anthropic側は「どの仕事にどのモデルを当てているか」を、Google Cloud側は「その仕組みが何の上で動いているか」を書いています。同じ構成を、提供している側がそれぞれの立場から説明している形です。数値や日付は、どちらも原文の表記のまま扱い、単位の換算はしていません。

Claude 導入事例「How Atlassian builds AI agents teams can trust with Claude and Google Cloud」のファーストビュー
引用キャプチャAnthropicの導入事例「How Atlassian builds AI agents teams can trust with Claude and Google Cloud」。記事で扱っているRovoの各機能でのClaudeの使われ方と、規模の数値がここに掲載されています。 出典:Anthropic 導入事例「How Atlassian builds AI agents teams can trust with Claude and Google Cloud」(確認日 2026-09-06/表示のファーストビュー)

直面していたのは、規模・複雑さ・信頼の3つ

Atlassianの顧客は350,000社を超えます。AI機能は数百にのぼり、20を超えるアプリにまたがって置かれています。この広がりの上で、顧客が求めているのはチャットの相手ではなく、契約書のレビュー、問い合わせの振り分け、見込み客の抽出といった、結果の重い仕事を実際に担うエージェントだと説明されています。

同社のAI責任者であるSherif Mansour氏は、繰り返し出てくる論点を「Scale, complexity, and trust seem to be the three biggest themes that keep coming up over and over again.(規模、複雑さ、信頼の3つが、何度も何度も出てくる最も大きなテーマのようだ)」と述べています。この3つは別々の課題ではなく、掛け算になります。規模が大きいほど失敗の影響が広がり、仕事が複雑なほど失敗の理由が見えにくくなり、その両方が信頼を削るからです。

同氏はもう1点、作り手側の課題も挙げています。「We’re good at building UIs for humans. The next muscle is making sure those capabilities are usable by agents as well.(私たちは人間向けのUIを作るのが得意だ。次に鍛えるのは、その機能をエージェントからも使える状態にすることだ)」という言い方です。人が画面から操作する前提で作られた機能を、機械が呼び出せる形へ組み替える作業が別に要る、という指摘になっています。

数値カード。顧客数350,000社超、AI機能は20を超えるアプリにまたがる、顧客の業務フローで毎月5 million+のエージェントが実行される
3つとも導入事例ページに記載されている値です。エージェントの実行件数は原文の「5 million+」の表記をそのまま載せています。 出典:Anthropic 導入事例(Atlassian)(確認日 2026-09-06)

規模の側の数値も出ています。顧客の業務フローの中で実行されているエージェントは、原文の表記で毎月「5 million+」です。アプリ内のアシスタントであるRovo Chatの利用者は数百万人規模とされ、そこではClaudeが土台のモデルとして使われています。件数の桁がこの水準になると、1件あたりの単価と応答の速さが、機能の良し悪しと同じ重さで効いてきます。

モデルを1つに決めず、経路で振り分ける

Atlassianは、AIモデルのゲートウェイを自社で作っています。主要な振り分けの層になっているのはGemini Enterprise Agent Platform(旧Vertex AI)で、提供者をまたいで処理を配る役割を持ちます。動いている場所はGoogle Kubernetes Engineで、学習と推論にはGoogle CloudのGPUとTPUを使うと説明されています。

振り分けの基準は用途です。件数が多く汎用的な顧客向けエージェントは、既定でGemini Flashへ流れます。そこから外れる、複雑で長時間にわたる仕事だけがClaudeへ回ります。Mansour氏はClaudeを選んでいる理由を、「The Claude models are better at following complex instructions consistently and handling larger amounts of context without losing important details.(Claudeのモデルは、複雑な指示に一貫して従うこと、そして重要な細部を落とさずに大量の文脈を扱うことに長けている)」と説明しています。品質と信頼が効く場面では、という条件が付いた評価です。

分岐図。顧客の業務フローから来たリクエストがAIモデルゲートウェイへ入り、大量の汎用エージェントはGemini Flashへ、複雑で長時間の仕事はClaudeへ振り分けられ、いずれもGoogle Cloudの基盤で動く
振り分けの層が1つあることで、利用者はモデルを選ばずに済みます。図の中の製品名とモデル名は、いずれも2つの一次情報に記載されているものです。 出典:Anthropic 導入事例(Atlassian)ほか(確認日 2026-09-06)

この構成について、同氏は「By using Gemini and Claude through Google Cloud, we hit a rare trifecta: costs dropped, quality improved, and latency remained optimized.(Google Cloudを通じてGeminiとClaudeを使うことで、コストが下がり、品質が上がり、レイテンシは最適なまま、という珍しい三拍子がそろった)」と述べています。ただし、下がった幅も、保たれた水準も、数値としては公表されていません。この一文を根拠に自社の削減幅を見積もることはできません。

背景にある考え方は、「In the world of AI, you cannot use one tool for everything.(AIの世界では、1つの道具ですべてをまかなうことはできない)」という一言に出ています。同じ発言の並びで、「A long-term roadmap in the world of AI is probably no more than three months these days.(いまのAIの世界では、長期のロードマップといってもせいぜい3か月だ)」とも述べています。特定のモデルに構成を固定しない作りは、この見立てと対になっています。

Claudeが担っている4つの入り口

導入事例ページでは、Claudeが使われている場所が製品ごとに書き分けられています。同じ「Rovo」の名前が付いていても、想定している相手と仕事の重さが違います。

製品 位置づけ 公表されているモデルの扱い
Rovo Chat アプリ内のアシスタント。利用者は数百万人規模 Claudeを土台のモデルとして、道具の選択とスキルの組み立てに使う
Rovo CLI 開発者向けの主要なAI体験 Claudeで動く
Rovo Max 早期アクセスの動作モード。作業ではなく目標を受け取る 最も複雑で長時間にわたる仕事をClaudeが担う
Rovo Studio ローコード・ノーコードでエージェントと自動化を作る場所 複数のモデルを組み合わせ、その中にClaude Opus 4.8とSonnet 4.6が入る

4つに共通しているのは、入口が分かれていて、後ろのモデルが共通だという形です。チャットから入る人、コマンドラインから入る開発者、目標だけを渡す人、エージェントそのものを組み立てる人が、それぞれ別の画面を使いながら、同じ振り分けの層にぶら下がっています。Atlassianの公式サイトでは、Rovoの土台として、チーム・仕事・目標がつながったTeamwork Graphが置かれていることと、管理者がAIのアクセス範囲を管理できることが説明されています。

エージェントが止まった場所に、いまの境目が出ている

Rovo Maxの実演として、1つの具体例が公表されています。出荷した仕事について「Instagramのリールを作って」とだけ伝えたときの動きです。エージェントはJiraのボードを読み、Teamwork Graphでつながった文脈をたどって、ひも付いたFigmaのデザインとGoogleドキュメントを引き当て、動画のライブラリを自分で見つけて使い、リールの台本と制作まで進めました。もともとInstagramへ直接つながる機能も、動画を生成する機能も持っていない状態からです。

工程図。Rovo Maxのデモで、エージェントが目標を受け取ってからJiraのボードを読み、Teamwork Graphで文脈をたどり、FigmaとGoogleドキュメントを引き、動画ライブラリを使って台本と制作まで進め、Instagramのアカウントが要る所で止まるまでの5段階
公表されているのは工程の並びだけで、所要時間、やり直しの回数、成果物の品質は示されていません。実演の内容であり、一般提供されている機能の説明ではありません。 出典:Anthropic 導入事例(Atlassian)(確認日 2026-09-06)

止まったのは、Instagramのアカウントが必要になった地点です。つまり、権限を持っていない工程が人へ戻る境目になりました。読み取れるのは能力の限界ではなく、権限の設計です。どこまでを機械に渡し、どこから先を人が握るかを、資格情報の置き場所で決めている形になっています。この線の引き方は、社内でエージェントを試すときにそのまま参考にできます。

一方で、この実演から成果を読み取ることはできません。台本の質、公開後の反応、担当者の作業時間がどれだけ変わったかは、いずれも示されていません。工程が最後まで自動で進むことと、その成果物が使える水準であることは別の話です

Google Cloudの発表と重ねて読む

インフラの側は、2026年4月22日にGoogle Cloudが出した発表に書かれています。Cloud Next ’26に合わせたもので、複数年にわたる提携の拡大として告知されました。Rovoの一部の機能をGemini 3 Flashが担うこと、GKEとAI Hypercomputerの上に学習と推論の基盤を建てること、GPUとTPUを使うことが並んでいます。

連携の側も具体的です。Gemini Enterpriseの中から直接Rovoを使えるようにすること、Atlassian Rovo MCPサーバーを通じてGoogle WorkspaceからJiraのデータを扱えるようにすること、たとえばJiraのデータをGoogleドキュメントやGmailへ引き込めるようにすることが挙げられています。Confluenceでは、文章の記述を図やチャートへ変換するRemixが示されました。あわせて、AtlassianがApplication Development – Developer Experienceの区分で2026年のGoogle Cloud Partner of the Yearに選ばれたことが記載されています。

発表の中では、AtlassianのHead of Product, AIであるJamil Valliani氏が「we’re giving customers more choice and powerful agentic workflows to improve how work gets done(顧客により多くの選択肢と、仕事の進め方を良くする強力なエージェント型のワークフローを提供している)」と述べ、Google CloudのVice President, Applied AI & Platform EcosystemであるSatish Thomas氏が、Gemini Enterpriseの力をチームワークの土台へ直接埋め込むと説明しています。前の節で見た振り分けの構成は、この提携の上に載っているものです。

マーケティングの仕事に置き換えると何が読めるか

読み取れることは3つあります。1つ目は、モデルを用途で分けているという点です。社内へ導入するときに「どのAIを使うか」を1つに決める必要はありません。むしろ、決めた1つを全員に使わせるより、仕事の重さで経路を分け、使う人には選ばせない形のほうが、費用と品質の両方を扱いやすくなります。日々の記事案の下書きと、複数の資料をまたぐ調査を同じ道具で回す必要はない、ということです。

2つ目は、差別化の置きどころです。Mansour氏は「What is the most sustainable differentiation any company can have? It’s just the context.(企業が持ちうる最も持続的な差別化は何か。それは文脈だ)」と述べています。モデルは入れ替わりますが、自社に蓄積された文脈は入れ替わりません。マーケティングの側で言えば、過去の施策の記録、顧客からの問い合わせ、判断の理由が、機械からたどれる形で残っているかどうかが、そのまま差になります。保管してあることと、たどれることは同じではありません

3つ目は、権限の線です。デモのエージェントが止まったのは、アカウントを持っていない工程でした。社内で試すときも、どこまでを自動で進ませ、どこで人へ戻すかを、資格情報とアクセス範囲の側で決めておくと、後から範囲を広げやすくなります。エージェントの考え方はAIエージェントとマーケティング、社内で使い始めるときの進め方は生成AIの企業活用で扱っています。

なお、ここに書いたのはAtlassianが公表している構成から読み取れる考え方であって、同じ形にすれば成果が出るという意味ではありません。効果は扱う業務と運用の仕方によって変わります。

公表されていないこと

確認できなかった項目を残します。費用がどれだけ下がったのか、レイテンシがどの水準に保たれているのかは、いずれも数値が示されていません。「三拍子がそろった」という表現までで、比較の基準も期間も書かれていません。

処理の内訳も公表されていません。Gemini FlashとClaudeがそれぞれ何割を担っているのか、振り分けの判定を何で行っているのか、失敗したときにどう戻すのかは、いずれも記載がありません。Rovo Maxについても、早期アクセスであることまでで、一般提供の時期、価格、日本語での利用条件は示されていません。

顧客側の成果も同じです。エージェントによって問い合わせがどれだけ減ったのか、見込み客がどれだけ増えたのかを示す数値はありません。導入事例ページに出ているのは、実行件数と利用者の規模までです。この事例から取り出せるのは構成と考え方であり、成果の見積もりではありません

出典と注記

この記事は、Anthropicの導入事例ページ「How Atlassian builds AI agents teams can trust with Claude and Google Cloud」、Google Cloudの発表「Atlassian Expands Partnership with Google Cloud to Power Agentic AI for Teams Worldwide」、およびAtlassian公式サイトのRovoのページを出典としています。確認日は2026年9月6日です。

発言はいずれも原文を併記しています。数値は原文の数字列のまま記載し、単位や通貨の換算はしていません。モデルの構成は短い周期で変わる領域のため、記載の内容は確認日時点のものとして扱ってください。海外企業のAI活用の他の事例は海外AI活用事例にまとめています。

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