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Duolingoのマーケティング戦略|開示資料で読むSNSとクリエイター

Duolingoの日次利用者は2026年4〜6月期に23%増えました。会社が挙げた3つの要因、自社SNSアカウントの外へリーチを広げた経緯、そして一度きりの施策と続く施策の分け方を、四半期の株主向けレターに書かれている範囲だけで整理します。

Duolingoのマーケティング戦略|開示資料で読むSNSとクリエイター - 株式会社セイビー

Duolingoは「SNSがうまい会社」として名前が挙がります。ただ、社外から見えているのはたいてい自社アカウントの投稿だけです。その裏側で何をどこまで自社でやり、どこから先を外部に任せているのかは、投稿を眺めていても分かりません。

その部分が、2026年8月5日に公表された第2四半期(2026年4〜6月期)の株主向けレターに書かれています。要点は3つです。自社アカウントの発信は四半期ごとに one billion organic impressions を超えていること。それでもなおhundreds of creators と組んで、自社アカウントが届かない層へ広げていること。そして同じ四半期に運用型広告のチャネル数と制作量を tripling したことです。

この記事では、その3つを一次情報の記載の範囲で並べ直します。あわせて、会社が自ら「一度きりの出来事」と書いた施策を、続く施策と混ぜずに読む方法まで扱います。人数と金額は、レターの表記をそのまま書き写し、単位の言い換えや円への換算はしていません。四半期はいずれも12月31日を年度末とする会計年度のもので、確認日は2026年9月8日です。

まず、この四半期に公表された数字を並べる

第2四半期のレターに載っている主要な数字です。左が前年同期、右が今期です。

指標 2025年4〜6月期 2026年4〜6月期
日次利用者(DAU) 47.7 million 58.7 million
月次利用者(MAU) 128.3 million 140.6 million
有料会員(期末) 10.9 million 12.7 million
売上 252.3 million ドル 298.5 million ドル
ブッキング 268.0 million ドル 289.1 million ドル
販売・マーケティング費用 29,563千ドル 40,007千ドル
研究開発費 73,670千ドル 92,195千ドル
純利益 44,781千ドル 33,158千ドル

単位が途中で変わっているのは、原文がそうなっているためです。利用者数・売上・ブッキングはレター本文の要約に million 単位で書かれており、費用と純利益は連結損益計算書に千ドル単位(in thousands)で載っています。丸めて単位をそろえると転記が原文と一致しなくなるため、そのまま並べています。

レターは伸び率も示しています。DAUは23%、MAUは10%、有料会員は17%、売上は18%、ブッキングは8%の増加です。

ここで先に気づいておきたいのは、DAUの伸び23%とMAUの伸び10%が離れていることです。月に1回でも開いた人よりも、毎日開いた人のほうが速く増えています。新しい人を連れてきた話だけでは説明が付かない形で差がついており、この差がどこから来たのかが、次の節で出てくる3つの要因につながります。

会社は成長の理由を3つに分けて書いている

レターは、利用者の伸びが加速した理由をこう説明しています。

We believe our user growth acceleration is due to three factors: product changes, marketing impact, and a one-time event to revive lost streaks.

製品の変更、マーケティングの効果、そして失われた継続日数を復活させる一度きりの出来事の3つです。順番に見ていくと、性質がかなり違うものが並んでいることが分かります。

Duolingoが挙げた成長要因を、翌四半期以降も残ると読めるものと、その回で終わると会社が書いたものに分けた判断図
左は継続して積み上がる性質のもの、右は会社自身が期間を区切っていると書いたものです。分け方は「会社が一度きりと書いているかどうか」だけで、こちらの推測は入れていません。 出典:Duolingo, Inc. 2026年第2四半期 株主向けレター(確認日 2026-09-08)

この分け方が要るのは、3つを合わせた結果として23%という数字が出ているためです。会社は要因ごとの寄与度を示していません。どれがどれだけ効いたかはレターに書かれておらず、外から推定する材料もありません。「クリエイター施策で23%伸びた」とは読めない、ということです。

自社アカウントの外側へ、意図的に広げている

マーケティングについて、レターは次のように書いています。

We have evolved our brand reach beyond our own social media accounts. While our social accounts have surpassed one billion organic impressions each quarter, we now also work with hundreds of creators around the world to generate content and introduce Duolingo to new audiences.

読み違えやすいのは前半です。自社アカウントの成果が足りないから外へ出た、とは書かれていません。四半期ごとに one billion organic impressions を超えている状態で、それでもなお外へ広げた、という順序です。理由も明示されていて、「introduce Duolingo to new audiences」、つまりまだ届いていない層へ紹介するためだ、と書かれています。

自社SNSアカウントと世界のクリエイターという2つの経路が合わさってブランドリーチを作る関係図と、中国・インドネシア・インドでのインプレッションの内訳を示した帯
自社が運用する経路と、社外に作ってもらう経路の関係です。下の帯は、上の3か国について書かれた内訳で、世界全体の比率ではありません。 出典:Duolingo, Inc. 2026年第2四半期 株主向けレター(確認日 2026-09-08)

広がり方が国によって違うことも書かれています。

In countries like China, Indonesia, and India, roughly two thirds of our social impressions have come from influencer-generated content.

中国、インドネシア、インドのような国では、ソーシャルのインプレッションのおよそ3分の2がクリエイター発の内容から来ているという記載です。裏を返すと、これらの国では自社アカウントが主役ではありません。同じブランドが、地域によって到達の作り方を変えていることになります。

複数のソーシャルメディアアプリのアイコンが並ぶスマートフォンの画面
到達の経路は、この画面に並ぶような複数のアプリへ分かれています。どのアプリで誰が発信するかによって、届く相手が変わります。イメージ写真で、Duolingoの画面ではありません。 写真: Zulfugar Karimov(Pexels)

日本の担当者にとって効いてくるのはこの点です。自社アカウントで届く範囲は、言語圏とプラットフォームの使われ方に強く縛られます。国内向けに1つのアカウントを磨き込む発想のままでは、そのプラットフォームを日常的に使っていない層には届きません。届いていない層がどこにいるかを先に決めてから、自社で出すか、その層と接点を持つ人に出してもらうかを選ぶ、という順序になります。プラットフォーム側の仕組みから運用を組み立てる考え方はTikTokマーケティングの基本で扱っています。

6月に一度だけ行われた施策に、15.4 million learners が参加した

3つ目の要因である一度きりの出来事は、レターに具体的な内容と人数が載っています。

Streak Revival was a one-time event in June that allowed eligible learners to restore their longest-ever streak by opting in and completing three lessons. The response was incredible: 15.4 million learners revived their streaks, including nearly 8 million users who had no active streak when the event began.

Duolingoには「streak」と呼ばれる連続学習日数の仕組みがあります。1日でも途切れると0に戻るため、長く続けていた人ほど、途切れた時点で戻りにくくなります。Streak Revivalは、その途切れた記録を条件付きで復元できるようにした2026年6月限定の企画でした。参加するには本人が申し込み、3レッスンを完了する必要があります。

Streak Revivalに参加した15.4 million learnersのうち、nearly 8 millionが開始時点で継続日数を持っていなかったことを示す帯グラフと、対象・必要な行動・実施時期の3条件
帯は、公表された合計15.4 millionと、そのうち開始時点で継続日数が無かったnearly 8 millionの比で描いています。右側の人数はレターに記載がありません。 出典:Duolingo, Inc. 2026年第2四半期 株主向けレター(確認日 2026-09-08)

注目すべきは内訳のほうです。15.4 million のうち nearly 8 million は、企画が始まった時点で継続日数を持っていなかった人でした。離れていた人が戻ってきた数がこの規模だった、ということです。DAUの伸びがMAUの伸びを上回った理由の一部は、ここにあると読めます。

ただし、レターはこの人たちがその後も続けているかどうかを書いていません。復活の日に3レッスンを終えた人が、翌月も毎日開いているのか、それとも数日で止まったのかは、この開示からは分かりません。会社が「one-time event」と明記している以上、翌四半期に同じ押し上げは起きないという前提で読むのが妥当です。離れた顧客を呼び戻す施策の効果をどこまで自社で追うかは、解約・離脱の改善の設計と同じ問題になります。

運用型広告は「増やす」より「分ける」方向で説明されている

マーケティングのもう一方、有料の出稿についてもレターは触れています。

We’ve built a stronger team and a more disciplined operating model, tripling both the number of channels in our mix and our performance creative output globally. We’re still early, but we’re already seeing this show up in top-of-funnel growth.

書かれているのはチャネル数と制作量を3倍にしたことであり、予算を3倍にしたとは書かれていません。この2つは別の話です。同じ予算でも、出す面と素材の種類を増やせば、どこが効くかを見分けられる状態に近づきます。「まだ早い段階」としつつ、上流(top-of-funnel)の伸びに現れ始めている、という書き方になっています。

実際の費用は、上の表のとおり販売・マーケティング費用が29,563千ドルから40,007千ドルへ増えています。ここで気をつけたいのは、この費用区分の中身がレターに列挙されていない点です。出稿費だけを指すのか、人件費やクリエイターへの支払いを含むのかは、この資料からは分かりません。費目の定義がそろっていない数字どうしを比べても意味が出ないことは、Airbnbの費用区分を10-Kで読んだ記事でも同じ形で出てきます。

前の四半期と読み比べると、説明の重心が動いている

同じ会社の3か月前のレター、つまり第1四半期(2026年1〜3月期)を並べると、書きぶりの違いがはっきりします。第1四半期のDAUは56.5 millionで、前年同期比21%の増加でした。そのうえで、こう説明しています。

DAUs grew 21% year over year to 56.5 million, lapping 49% growth in Q1 2025 when we benefitted from our “Dead Duo” campaign.

前年の同じ四半期は49%伸びており、それは「Dead Duo」キャンペーンの効果があったからだ、という説明です。「lapping」は、前年に大きく伸びた期間と比較する状態を指す言い方です。前年に効いた話題性の高い施策が、翌年の比較を難しくするという構図が、会社の言葉で書かれています。

この2本を並べると、第1四半期は「前年の大型キャンペーンの反動を説明する回」、第2四半期は「製品・クリエイター・一度きりの施策を分けて説明する回」でした。話題を作る施策そのものを否定しているわけではありませんが、話題の大きさを毎年更新し続けることを前提に置いていないのは読み取れます。

この開示から言えないこと

ここまではレターに書かれている範囲です。マーケティングの記事でよく求められる項目のうち、確認した資料に記載が見当たらなかったものを挙げます。

まず、クリエイターへの支払い方と総額です。hundreds of creators と協業していることは書かれていますが、報酬なのか成果連動なのか、契約の形も金額も記載がありません。次に、チャネル別の内訳です。3倍にしたチャネルが具体的に何なのか、上流の伸びがどの面から出ているのかは示されていません。

3つ目に、日本市場の数字です。国名として挙がっているのは中国、インドネシア、インドで、日本の利用者数もインプレッションの構成も出てきません。4つ目に、Streak Revivalの参加者がその後どうなったかです。復活した人の継続率は書かれていません。

いずれも「社内で持っていない」という意味ではありません。四半期の株主向けレターは投資家に向けた文書で、載る項目はその目的で選ばれています。外部の読み手が確かめられる範囲がここまで、ということです。

自社の数字に置き換えるときの3つの手順

この事例から持ち帰れるのは、施策そのものより、成果の分け方です。

1つ目は、伸びた理由を、続くものと続かないものに分けて書き出すことです。Duolingoは3つの要因を並べたうえで、1つを「一度きり」と明記しました。自社の月次で数字が跳ねた月に、記念企画やキャンペーンが混ざっているなら、それは翌月に繰り返せないものとして別建てにします。混ぜたまま平均を取ると、翌月の計画が実態より高いところから始まります。

2つ目は、自社アカウントの到達と、他人の口を通した到達を別々に数えることです。中国・インドネシア・インドで3分の2という比率を出せているのは、この2つを分けて計測しているからです。合算した「総インプレッション」だけを見ていると、どちらを増やすべきかの判断ができません。指標の定義と集計単位をそろえる作業はKPIレポートの作り方で扱っています。

3つ目は、復帰した人と新規の人を分けて追うことです。Streak Revivalの内訳が意味を持っているのは、参加者のうち「開始時点で継続日数が無かった人」の数が別に示されているからです。自社でも、初めて来た人と戻ってきた人を同じ「増加」に入れてしまうと、次に何をすべきかが変わってしまいます。戻ってきた人が多いなら、次の課題は獲得ではなく定着です。

いずれも、新しいツールも追加の予算も要りません。持っている数字を分けて置き直すだけの作業です。

この記事で確認できたこと

Duolingoの2026年4〜6月期は、DAUが58.7 million(前年同期比23%増)、MAUが140.6 million、有料会員が12.7 million、売上が298.5 million ドルでした。会社は伸びの理由を、製品の変更、マーケティングの効果、一度きりのStreak Revivalの3つと説明し、寄与度の内訳は示していません。

マーケティングについては、自社アカウントが四半期ごとに one billion organic impressions を超えていること、hundreds of creators と協業していること、中国・インドネシア・インドではインプレッションのおよそ3分の2がクリエイター発であること、運用型広告のチャネル数と制作量を3倍にしたことが書かれています。クリエイターへの支払額、チャネル別の内訳、日本の数字、復活した人のその後は、いずれも記載がありませんでした。

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